■時事ネタコラムvol.17  「三井住友銀行の新人事制度 ―人材の活用―」

■時事ネタコラムvol.17  「三井住友銀行の新人事制度 ―人材の活用―」

2019年4月25日 0 投稿者: 大橋資博

 4月16日、17日付の日本経済新聞に、三井住友銀行が2020年1月をめどに新たな人事制度を導入するという記事が出た。就活のこの時期を狙った宣伝的な位置づけもやや否めないが、古巣の銀行が2001年の合併以来初の総合的な人事制度改正に挑むということで内容について考察してみたい。本コラムで以前に三菱UFJ銀行の新人事制度について取り上げたが、銀行人事シリーズの第2弾となる。


 私は社会人をスタートさせたさくら銀行(現・三井住友銀行)を退職して、いったんはアカデミックの世界に戻り、そこで金融機関の人事制度に関する研究に取り組み、その後はゆうちょ銀行で人事企画の統括を務めたこともあり、実務にも理論構築にもしっかりと取り組んできたというそれなりの自負もあって、金融機関、とりわけ銀行における人事制度やキャリア形成については非常に強く関心を持っているところである。
さて、宣伝はさておき、今回の三井住友銀行の制度改正でメディアに示されたポイントは大きく2点ある。(つまりこれが対外的に伝えたいことであり、実際の制度改正には知られたくない部分があるとも考えられる。)
①シニア世代の活用
②年功的なキャリア形成の排除

 ①のシニア世代の活用は年齢を絶対評価にしないという点で価値があると考えている。企業にとって大切なのは、その企業にとって価値を生むこと、つまり、企業のプラスになることをしてくれる人を増やして企業自体の成長につなげることである。最近、若いというだけで付加価値が高いと誤解させるような論調があったり、一方で人生100年時代に備えてやみくもに高齢者の活用というテーマだけがかけ踊ったりして、組織が人材活用をどういう着眼点でとらえて行けばよいのかという本質論が抜けていることが多い。人材として成長し、会社への貢献が期待されるのであれば、世代を問わずに機会をどんどん与えていくべきであろう。それが年齢だけで老いや若きで一律にくくることは賛成しかねる。逆にもしその企業の仕事が「時間」を軸にして成果が上がるという相関関係があるのであれば、待遇が年功序列型になることに大きな違和感を感じることはないのではないだろうか。
 65歳定年制は時代の流れに合わせて先手を打ったという施策だと思われるが、これは社内の人事管理への影響が小さくないだろう。大手銀行のキャリアパスでは50歳~55歳くらいに他社へ転籍をすることが多いため、銀行本体内で用意すべきポジションの数も限定的であったはずである。しかし65歳定年制となって銀行滞在期間が長くなると、その分のポストを用意しておく必要も出てくる。その間は別に「余生」として過ごしてもらうのでは意味はないわけで、十分に生産性を上げて価値向上をしてくれる人材となるような人材マネジメントが求められる。
ただしここであまりフォーカスされていないが興味深いのは「60歳以上に限定した副業の解禁」である。つまり「外で稼いできてくれ」ということなのである。60歳以上といっても仕事はバリバリできるのであり、そのノウハウは他社で十分に活用できる場合も多い。そうした60歳以上社員について、本籍を銀行に残しつつ他社(正確には取引先)で働いてもらおうという目算が見て取れる。


 続いて②の年功的なキャリア形成の排除だが、今回の制度改正により総合職は3つの階層に分類されるという。同行では今後は非管理職は1階層だけになり、2階層目となる8年目で管理職になれる仕組みが出来上がるというわけである。有能な人材であれば早いうちから管理職としての職務を得るチャンスが生まれ、それに連動している(はずの)報酬も手に入れることが出来るということになる。この点について大切なのは、それまでの期間に管理者として十分に能力を発揮できることが透明性と公正性をもって明確になるように、運用されるようになっているかどうかである。管理職からの降格があるかどうかは今回の制度改正に含まれているか分からないが、仮に制度として設けられていても日本の大企業で管理職からの降格は簡単には実施されないとみて取ったほうが良い。であると、ブラックボックス化された管理職昇格人事は、結果としてマネジメント力のない人材による組織全体のパフォーマンスの低下を引き起こすリスクを高めてしまう。


 三菱UFJ銀行の制度改正に対する考察でも述べているので繰り返しとなるが、プロセスの透明化を行うために必ず避けて通れないのは、関係各部署とのコミュニケーション、とりわけ人事部内の密接な連携だということである。運用サイドと制度企画サイドで本新制度の目的と運用方針がすり合っていないと、有能な人材を登用して企業の成長に資するためだったはずの施策が、一部の実力のない社員の優遇を生む悪行のための剣になったり、それがより多くの社員のモチベーションを下げることになりかねない点は注意すべきである。また、今回のように30才で最短管理職、最短支店長という制度について、支店を統括する営業部門がどの程度人事や経営の意図を理解して運用するかどうかもポイントとなってくる。
密接な連携とか組織間のコミュニケーションというと単にお題目のように唱えられているが、実際に単なる号令で終わっているケースをよく見る。というかこれがほとんどかもしれない。そしてこれが大企業の仕事のスピードを損ない、施策を進めていくうちに本来あるべき方向性を見失い効果をもたらしていない大きな原因である。結果として最も大切となるのは、こうした組織間を束ねるリーダーシップであり、現場レベルで言えばマネジャーの組織全体を俯瞰して最適解を導く力であろう。