第1章 等級制度① ―ショートケース「社内用語のバランス」―

第1章 等級制度① ―ショートケース「社内用語のバランス」―

2019年4月15日 0 投稿者: 大橋資博

「部長代理」と「部長補佐」はどちらが偉いのか?
笑い話のようなものだが、仕事相手の会社の役職を見て、誰が一番偉いのか分からなくなる話はたまに耳にする。大企業になると社内でも組織や事業部門で異なる役職を用いていることがあって、社内の人間でも「推進役と審議役と企画役ってどっちが偉いの?」といったようなことが起きている。誰が偉いかどうかなんて役職は関係ない、という世界もあるだろうが、殊更大企業においてはそのことで仕事が進み決まることも多いためなかなかもって重要な話である。


 冒頭の例では、部長代理は言葉にならった定義では部長の代理を執行することが出来るポジションと解釈できるため、部長同等クラスの(もしくはそれに近い)人材を想定しているはずである。部長補佐はあくまでも部長の補佐を行う仕事であるから部長同等クラスの職責を果たせるとは言えず、部長代理の方が上の役職と位置付けることにある程度納得感がある。ここまでは多くの人が感じることかも知れないが、では、「部長心得」と「部長補佐」はどうなのか。さらに「副部長」も含めるとどんな序列になるのか。いずれも部長には至らない位置づけのように受け取れるだろう。心得は部長の役職を正式に与えることはしていないもののその職責を理解し行動することが出来る人材としての部長予備軍の位置づけと捉えることが出来、やはり部長補佐よりは上なのかもしれない。副部長は今まで出てきた補完的役職とは異なり、部の中である部分的な職責範囲を有して定義づけられているポジションであろう。

 役職の定義を吟味するのが趣旨ではないためこの辺りとするが、言いたいのは実際のビジネス社会では上記の言葉の定義の通りに決まっていないことも多く、また、会社間ではさらに関係が複雑になっているということだ。ここでショートケースを一つ考えてみたい。


棚橋さん(仮名:43歳)は一部上場の総合商社A社の資源・エネルギー部営業第一課の課長である。A社は従業員1万人を誇り、その会社の課長として多くの予算をもってプロジェクトを動かし、10数名の部下がいる。棚橋さんは入社してちょうど20年。順調にステップアップを果たしてきた。一方でB社は設立間もないベンチャー企業で従業員は20人。そこで課長の責を担う大河内さん(仮名)は、大学を出て3年目。大企業では若いうちに積むことが出来る経験に限りがあると考え、先輩に誘われたこの会社に入ったのだが、既に創業メンバー以外で古株から数えたら5番以内に入るほどで、経営陣からも信頼が厚い。
さて、縁あって大河内さんはA社と仕事のチャンスを得ることになったのだが、その時の打ち合わせにA社から参加したのは、棚橋さんの部下で入社5年目の役職のついていない社員であった。大河内さんは打ち合わせの帰りがけ、何となく悶々としたものを拭い去ることが出来ないのであった。『A社は偉そうな会社だな。なんでこちらは課長である俺が出てるのに向こうは課長ではなくてペーペーの担当者なんだ。うちをベンチャーだと思ってなめてるに違いない。』
 大河内さんは次の打ち合わせの機会の前にA社に連絡をすると、「次回は御社の棚橋課長も出席させてください」と伝えたのだった。それを部下から聞いた棚橋さんは、部下にこう指示したのであった、「向こうは課長と言っても小さな会社で3年目なんだろ?課長とはいえ単に名ばかりだろうし、俺が出ていくまでもないだろう。それにこの件ならお前の経験であれば十分話が出来るだろう。」

このようなシーンに出会った人は少なくないかもしれない。棚橋さんやA社を傲慢な会社だと思うのか、大河内さんを認識が甘いと思うのか、等々、様々な捉え方がありそうだ。
サラリーマンの人生において、役職なんて関係ないと言う人も少なからずいるだろうが、多くの人、特に大企業においては役職を上げることが目標となっていることは紛れもない事実である。等級制度は会社の中で責任と役割を定義する重要な仕組みであり、つまり自分が責任と役割の範囲や深さを拡大したいと思えば、その定義された役割の階段を上がっていくことが必要となる。ある程度の裁量を持つことが出来る高さまで階段を上がるためには、大企業では10年や20年では難しいことが一般的である。では若いうちは人の指示だけを聞いているのかというと、それは必ずしもそうでもなく、役割の定義とそこにおける責任の付与次第で変わってくる。また、自身の仕事自体は全体のごく一部であったとしても、仕事の全体像が分かる仕組みになっているかどうかが各人の責任意識に影響を与える。
また、等級制度を持たずとも各自が自分のできることをやってそれが最終的に仕事の形となっている場合もある。フラット型組織などがその一つの例と言えるが、会社の機能が分化していると、いずれにしても各人の仕事が自然と最終形になっていくプロセスをコントロールするための仕組みが必要となってくる。そしてコントロールの役割を担う人材を効果的に動かすには何かしらの形で自身の役割やそこにおける責任を付与することがやはり必要であろう。そこにはやはり等級制度が機能していると言えよう。
次章では具体的な等級制度の在り方について議論を深めていきたい。