第8章 タレントマネジメント ―個を活かすことで組織を強くする―

第8章 タレントマネジメント ―個を活かすことで組織を強くする―

2019年4月4日 0 投稿者: 大橋資博

 タレントマネジメントに関してはダイバーシティや働き方改革の流れの一環で最近注目されているワードだが、定義が定まっていないというのが私の印象である。
私もこの分野を専門的に勉強したわけではないので数少ない文献の聞きかじりのようになってしまうのだが、例えばP.Cappelli and JR Keller(2011)の「Talent Management:Conceptual Ap-proaches and Practical Challenges」においては、タレントマネジメントの定義について「the pro-cess through which organizations anticipate and meet their needs for talent in strategic jobs」と表現されている。私の拙い英語訳で正しいか分からないが、「組織が、戦略的な仕事において用いる才能・能力(Talent)に対するニーズを、予測して適合させるためのプロセス」というものだろうか。


  20年ほど前までは、会社の人材一人一人が総じて組織側の主導でフレームワーク化している人材像に基づいて行動し、その一種のルールの中で組織人生を送っていくという考え方がごく普通であった。採用は定期採用がほとんどであったため、採用するときは同じ面接プロセスで基本的に面接基準も同じ。育成や配属と言った人事管理も同じ思想の中で行われ、途中入退場もそれほど多いわけではないためメインストリームとなる人材は変わらない。多くは大企業~中堅企業に該当する話ではあるだろうが、人材を組織に合わせるアプローチであったといえよう。
 しかし今の時代、組織機能は多機能化し、さらに人材の多様性を企業側が受容することは当たり前のこととなった。多様性という考え方が、企業経営のパフォーマンス向上に有効的に活用ができているかどうかは別の議論として一旦おいておき、少なくともかなりの高い程度で社会的にコンセンサスを得ていることからすれば、会社側が一方的に人材のあり方を決めてそれに基づいて動いてもらうことは生産性を低めて付加価値を産まないと考えられるのが現状である。


そのような中でタレントマネジメントは、今後もっとも重視されるべき人事施策の1つだと考える。
例えば企業における人材育成担当の配置のシーンを例に考えてみよう。これまでに行われているアプローチは、
「上司(ある組織)が欲しいと思っている人材」
「人事異動(配属)の対象となっている人材」(つまり時間や役職といった要素も踏まえて人事異動マーケットに出されている人材)
基本的にこのマッチングであり、つまりここで求められる重要なKPIは相性の良さであり、能力やスキルといったテクニカルスペックである。
 そのようなプロセスの結果として、もともと人材育成の仕事を希望していない人間が配属されることもあるだろう。しかし、上司が気に入ってしまえばその人材はそこに張り付けとなってしまう可能性もあるし、そのことによって当人もモチベーションは下がり、組織的にも得をしない。また、そこでパフォーマンスを上げられないことで人材としての価値を低く評価されてしまった場合、その人材がもっと機能発揮できるポジションで活用されないままスポイルされていくというのはよく聞く話だ。また配属された人間の今後のキャリアパスの形成について、それぞれの上司の間で共有、連携がされていることもなく、人事でもいったん配属した後の日常的なパフォーマンスは把握しきれないため、「ぶつ切りのキャリア」が形成されていくことも多い。器用な人間であればどこでもうまくこなすのかもしれないが、それは文字通り「こなしている」のであって、経営への貢献が高いかどうかは別の話である。


このように、あくまでもその人材に関わる人間たちの個人的な目線で「配置」が行われているのが現状であろう。時には自分の部下の属性を事細かに調べ上げて、プライベートな部分まで含めてどっぷりと関係性を構築しようとする上司もいるが、これは単に自分の満足度向上のための過干渉に過ぎない。「その人材がどういう能力やスキル、経験、バックグラウンドを持っているかどうか」をプロファイルすることが目的ではないのである。


 しかしタレントマネジメントの考え方は目線が異なる。タレントマネジメントとはきわめて戦略的な動きである。人材の採用、配置、育成、評価・・・といった一連の人事管理を有機的につなげることを前提としており、それらを通じて人材の生み出す付加価値を高めるための取り組みである。例えば人材配置にあたっては、その人材の配置に伴う能力発揮により期待されるパフォーマンス(成果)が重要なKPIとなる。自分のよく知っている部下がそろそろ昇格してもよい頃だから引っ張って来よう、ではないのである。当然、そのためにはその該当組織において必要となる能力、スキル、行動を要件として設定しておくことが必要である。
  そこで、タレントマネジメントが効果的に機能する前提となるのは、人材ポートフォリオの構築と人材マネジメントに優れたマネジャーであろう。どういう人材がいて、どのようなパフォーマンスを発揮することが出来るのか。どのポジション、どのような役割を与えることで組織への価値貢献を生むのか。個々の人材が重要となる。そしてさらに大切なのは、実際に価値貢献を生むように人材を動かし、活用するのは力を引き出すことのできるマネジャーの存在である。これからの人事部に求められるのは、こうしたタレントマネジメントが可能な人事のスペシャリスト、組織を構築することであろう。