■時事ネタコラムvol.14 「人事異動の季節 ―自責と他責―」

■時事ネタコラムvol.14 「人事異動の季節 ―自責と他責―」

2019年3月18日 0 投稿者: 大橋資博

  3月末は4月1日に向けた人事異動の最盛期となる会社が多い。
この時期になると、とかく社内の空気がそわそわとするものである。会社によっては会社都合の人事異動を行わず、自身の希望部署で働く前提となっている場合もあるだろうが、特に大企業では機能によって多くの組織に分化していることから、全員が希望する部署に配置されているわけではない。また、総合職であれば、社を率いる立場になったときの視界を良好にするためにも、異動を前提にした人事ローテーションというものが存在する。
 そうすると、希望通りになったりならなかったりの悲喜こもごものドラマが起きるわけである。人事部が多くの人から妬まれ疎まれ、一方で憧れられ大事にされる理由は、この悲喜こもごもを生み出す「権力の杖」を持っていると思われてしまうからである。あたかもギリシャ神話における、ゼウスの忠実な側近として指示を遂行する権力神のクラトスよろしく考えられているのである。


 しかし、人事部経験があるとより身近に感じるのではないかと思うが、確かに人事は最終的に人事案を作成するが、その元ネタとなる個人別の処遇案はそもそも各事業部が考えるものであり、人事部は人事異動案をベースに各事業部間における調整を行うのが本務である。もちろん、異動方針は人事部が考えるのが通例であるため、次に昇格させる人材のスペックであるとか、どの部署にどういった人材をどの程度配置させるのか、という考え方のフレームワークを決める権限は有している。しかし誰を上げるとか、誰を出すとかいったバイネームにかかる案作りは所属部署の仕事である。逆に言えば、人事部がそこまで踏み込んで決めている会社があるとすれば、それは人事部が全員のスペックを見渡すことが出来る会社であって、大企業になればなるほどそれは現実的ではない。一緒に仕事すらしたことが無いのはおろか、見たことすらない社員の異動案まで作っている企業があるとすれば、そのような企業は人事に関して社員の満足度や信頼度はかなり低いと言えよう。


さて、意に染まなかった人事異動になった場合に、よく耳にするのが「私は上司に嫌われているから」、「有名大学出身じゃないから」、「飲み会を断ったから」といった、どうもきちんとした根拠が無さそうな理由である。これらはとどのつまり「自分が悪いんじゃなくて相手が悪い」という他責の考え方である。
何も意に染まない人事異動があったのは自分にだけ責任がある、と言いたいわけではない。むしろ、意に染まなかったという人事異動だって、上司や人事部も何らかの意図や考えをもってその異動を組んだのであろうから、私ならしっかり上司なりに異動の意図を確認することをお勧めする。それを聞かずして他責に走ることはその先の自分のモチベーションに悪影響しか残さない。しかし、上司が意図を伝えることを避けるような人間であれば、それは確かに上司に問題があるだろう。そんな上司はマネジメント能力に問題があるわけで、遠慮なく人事部なり経営に申し出るべきである。


 

ただこうした他責に陥る社員はどの会社にもいるだろうし、その場その時の愚痴に過ぎない場合もあって、ある意味で想定された反応でもあるため、コントロールの範囲内である。話がややこしくて対応に苦慮するのは、自己否定型の他責社員である。

この自己否定型は、自分の意に染まないことが起きると、自分がダメだということをひたすらアピールする。「こんなことが起きたのは自分が悪いから」、「自分という人間がダメだからこんな人事異動になってしまったんだ」といった具合である。周囲の同情や憐れみといった感情に訴えかけて、自分の味方を作ろうという考えにも取れるし、それだけではなく自分を悲劇の主役にするための作為的な動きをする人間もいる。上述のように騒ぎ立てるやり方であれば、不満の出所が明確であるし、向き合って丁寧な説明をすることが効果を発揮することが多いが、このケースでは最終的に望んでいるものは今の状態を救ってもらうこと(極端な話、人事異動の取り消しや今後の保障)の場合があるため、話し合いだけではなかなか解決の糸口が見つからない。とはいえ特別扱いをするのは解決策とはならない。まず否定していることと現状の無関係性を伝えつつ、その否定に至った経緯を一緒にたどるのが良いだろう。その場合、否定に至るような出来事が思い込みであったり創作であることを本人に認めてもらうことが重要である。


 しかし、このケースで人事や上司が気をつけなければいけないのは、この社員が本当に精神的に負担を感じていたり、障害を持っていたりする可能性も踏まえておかないといけないということだ。社員の中には自分を上手にコントロールできない人もたくさんいるわけで、その場合に話を聞くことから、適切な処置で現状を変えてあげることが必要となる。話をしっかりと聞いて理解を深めていくと、本人が求めているものが見えてくるものである。ただ私の経験上は、そこまでやったときにやはり「処遇の向上」を求めて事実に反する他者の批判を始めてきた場合もあり、そうなったら要注意である。
 人事異動は会社にとって人材のパフォーマンスを高めるための重要な戦術である。社員の気持ちや生活への配慮は当然忘れてはならないが、会社側が目的を見失ったり成果を落とすようなことはあってはならないものだと考える。