第6章 選抜型教育② ―リーダーを作り出せ―

第6章 選抜型教育② ―リーダーを作り出せ―

2019年3月9日 0 投稿者: 大橋資博

 さて、リーダー開発のもう一つのポイントとして、施策の効果について考えていきたい。

  日本企業にリーダー開発が必要だと私が考える理由の一つに、そもそも日本企業は権限の委譲が得意ではなく、トップ等の一部の上層部の人間に権限が集約される傾向が強いという背景がある。トップの権限が強いという観点で言えば米国企業であってもさほど違いは無いように思うのだが、大きな違いは「事業経営の根幹にかかわることのない日常的な業務の意思決定や権限」までもが上層部に委ねられているという点である。もちろん企業によって差はあるだろうが経営上の重要性が低い事項でも役員の決裁を仰いだり、役員が細かな事務的な事項まで事前報告を求めたり等、権限移譲が十分ではないと考えている。このことは言い方を変えれば、トップ以外のある程度の地位にある人間でも意思決定する場面は少なく、責任を問われることがないということである。彼らは一定規模のリソースを預かる身であるに もかかわらず、経営にかかわる意思決定をすることもなく日常的なルーティン業務に埋没していく。ある意味で経営に対して無責任、無関心になってしまう。それは、個人の責任よりもチーム、組織といった集合体による責任への分散によって、成果や競争といったギスギスしがちな要素が支配する風土形成を避け、社員間の雰囲気を良くして円満ムードを作りだす面を享受しようとしているからであろう。このことは、責任回避により利益へのコミットが弱まり、意思決定をしない人間たちがあふれることによりスピード感や変革気質が損なわれるリスクを有する。


 企業は、規模が大きくなればなるほど機能が分化して、一人のリーダーだけでコントロールできる範囲はどうしても部分的となってしまう。そのような状態にある場合、リーダーとしては各機能における優秀な人材に意思決定と権限を委譲することによって、会社全体として優れた機能が発揮できる土壌を維持することを選ぶべきであろう。確かにすべてを一人でこなすことが出来るスーパースターがいれば不要なのかもしれないが、そのような人材が頻出することも稀である。しかしいざそのような段に及んでから慌てても人材は急に用意できない。したがって日頃からリーダー候補となる人材をプールしておくことが必要なのである。リーダー開発は優秀な経営者にとって持続的な企業成長に向けた大切な戦略である。


そうしたリーダー開発の効果であるが、1つ目として「社員のモチベーション向上」があると考える。リーダー開発施策は、比較的ジュニアな層(たとえば管理者未満)における企業成長に向けたモチベーションの高い人材にとって、自分が目指すリーダーのポジション獲得に向けたメルクマールとして位置付けることが出来る。自分の社内でのステップアップを構想する際の拠り所になるだろう。社員によって会社に身を置くことの目的も違うだろうが、少なくとも将来的に経営リーダーとなって企業の舵取りをしたい人材にとっては、この施策に自分がエンゲージすることは目指すべき目標の一つとなろう。

効果の2点目はリーダー候補者の早期の人脈形成や視野の拡大が得られる点である。ある程度の年齢に達してから社外との交流を増やしたり人脈を作ったりするには時間が不足することや、年数の限られたリーダー人生と引き換えにリスクテイクする思想は働きづらいという点を補う意味で、リーダーとしての早期位置づけ(仮にリーダーとしての着任が早くないとしても)を行うリーダー開発施策は意義があるといえよう。リーダー開発の施策は研修だけを指すのではなく、あるポジションでの経験や他流試合なども含めた複数の施策を絡めて行うものである。将来的にリーダーが仕事をする相手は社内の人間だけではなく社外の人間が多いことを考えると、様々なタイプの人間を知り、世の中の動きに身を置いて意思決定する経験は武器となるだろう。

3点目には人材の獲得力向上を挙げたい。これはリーダー自身の効果ではなく会社として得る効果である。新卒・中途を問わず優秀な人材を惹きつける要素として、その会社が自身のパフォーマンスを適正に評価して処遇してくれる面が大きいと考える。社内にリーダー選抜の仕組みがあることはもちろん、それが有効に機能しているという点において企業としての魅力を高め、優秀な人材を惹きつけることにつながるだろう。

日本企業は変革期を迎えている。自社の外を見ればグローバル競争にさらされ、デジタル時代を勝ち抜く新たな発想、技術が求められている。一方で高年齢化や働き方に対する意識変化と言ったソフト面での環境変化も起きている。そのような中で今までのように箱の中身を空けないまま大事に保管して次につなぐだけのリーダーでは乗り切ることは出来ず、優れたリーダーの創出というのが日本の産業社会の発展にとっては不可欠であろう。