第6章 選抜型教育① ―リーダーを作り出せ―

第6章 選抜型教育① ―リーダーを作り出せ―

2019年3月4日 0 投稿者: 大橋資博

「あなたの企業のリーダーは優秀ですか?」


この章では選抜型のリーダー開発施策(以下、簡易的にリーダー開発と表記する)について考察をするが、このテーマは人事領域の中でも私が特に重要だと考えている要素の一つである。この先でもリーダー開発については折に触れて述べていきたいと考えている。

 私は日本企業におけるリーダー開発が十分ではないと考えている。それは研修量が足りないということではなく、リーダーを意図的に作り出すための仕組みが構築されておらず、リーダー開発を行うための組織土壌が未熟だという意味である。もちろん、だからといってリーダー開発の施策が根付いている米国企業に比べて企業業績が上がらないとは一概には言い切れない。リーダー一人の力で企業の成長が決まることはないからだ。


 ただ、平成の世において日本企業の時価総額が米国、アジアの企業に比較して伸び悩んできたや、新規事業の開発が立ち遅れてきたことの背景には、日本企業でリーダーを生みだす仕組みが作られていないことに関係があるのではないかとにらんでいる。また、CEOの就任年齢と在任期間を日米のリーダー企業で比較すると、内部昇進の場合であっても10歳近く米国は若く、その在任期間は倍以上の10年を超えるというデータがある(ニッセイ基礎研究所調査より)。

 日本企業にも当然リーダーという立場の人間は存在していたのであって、その人が曲がりなりにも意思決定を行い、戦略を実行し、組織を指揮してきたわけだが、なぜ総じて他国の成長企業のように企業の付加価値を高めることが出来てこなかったのか。そして早期にリーダーとして着任し、ある程度の長期間にわたって企業経営のかじ取りを行うことが出来ないのか。それは“意図的に作られたリーダー”ではなく、“結果としてやることになったリーダー”に過ぎないからである、というのが私の意見である。(念のため、全員がそうだということではなく総論として語っており、当然例外となるリーダーもいることは理解している)


そこで本章ではまず、

「なぜ日本企業ではリーダー開発の取り組みがなされてこなかったのか」
「ではリーダー開発の取り組みによってどんな効果が期待できるのか」
という点について考察していきたい。

 まず前者のリーダー開発がされてこなかった理由だが、大きく分けて3点に集約されると考える。

①選抜するリスク

これは、リーダーを意図的に選抜する仕組みの導入により選抜対象とならなかった人材のモチベーションやパフォーマンスにネガティブな影響を与える可能性を重く見ているということである。したがって部長くらいまでは、(少なくとも表面上分かるような形には)ほとんど大きな差がつかないまま昇進が続き、ようやくそこからリーダーの椅子をめぐる戦いが始まる。そしてそれを行うのはその時の経営陣のみという非常に限られた期間に限られた目で見られた限られた人材たちだけがリーダー候補者となる。彼らも意思決定をする場面がないまま最後の数年間で急にリーダーシップを発揮する場面がやってくるわけである。リーダーの要素として持って生まれた素質の部分もゼロとは言えないとすれば、そこで素晴らしいリーダーとなる可能性もあるが、それはもはや「運」の世界である。

②選抜する基準がない(不明)

いざ選抜しようにも何を基準に選抜してよいのか分からないというのも大きな理由であろう。リーダーは最終的に残った人間を見てその時の経営陣が判断する、というどこかごく一部の人間の個人的感覚に委ねられた仕組みが続いた結果として、その会社としてリーダーとして必要な要素が認識されず培われてもいないのである。過去の人事評価においても、人物評価や業績評価の基準が曖昧で信頼性が低いため選抜基準として用いる妥当性に欠ける。結果としてリーダー施策の対象者を年次順にとしてしまう企業も多い。また、外部登用者は社内の事情や人間関係に通じていないことからリーダーとして組織を統率できない(からリーダー候補者にならない)と考えている。米国企業においても長くその会社にいれば当然その会社の事情や人間関係に長じると思われるが、そのことと経営リーダーとして高いパフォーマンスを発揮することの因果関係が日本企業に比較すると低いということではないだろうか。

③人材開発に投資するという思想がない

 人材はOJTを基本として仕事を通じて成長するものであり、人材開発への投資にあまり積極的ではないという考えが根強い。もちろんOJTの重要性はその通りだと考えるが、一方で必要なスキルや買ってでも欲しい自社では持ちえない発想やロジックを身に付けさせるための投資を無駄なコストと考えられてしまうことが多い。人材開発予算は業績不振時に優先的に削減される対象の一つであり、人材開発担当部署の人材がファーストトラックに乗っていることは少ない。人材開発施策の代表例である研修は、会社が業務上の義務と言って参加指示を出したとしても、「業務多忙」の一言があれば不参加は容易であるケースもよく耳にする。


こういった背景から日本企業においてリーダー開発の取り組みは進んでこなかったのではないだろうか。

次の章では、リーダー開発のもたらす効果について考えていきたい。