第2章 人材開発体系 ―ビジョン忘れるな―

第2章 人材開発体系 ―ビジョン忘れるな―

2018年12月27日 0 投稿者: 大橋資博

人材開発を行う時にまず取り組むべきことは「体系」を作ることである。つまりその会社の人材開発に関する設計図を作るということだが、その設計図には「組み立て方」と「組み立てた後の機能」の両方を盛り 込んでおく必要がある。

この体系づくりを「年間研修計画」という形でとらえている企業も多いが、これでは組み立て方だけしか表されていいないため、言ってみれば中途半端なものといえる。新入社員研修があって、5年目に中堅リーダー研修があって、管理職研修があって、、、という項目だけを追っていくのでは、「で、自分はどうすればいいの?」である。人材開発体系とはその会社にいる人材にとって、自分が目指すキャリアゴールを描くための航海図となり得るものでなくてはならない。そのためには、体系に示されたキャリアをたどっていくことで自身がどのような成長ロードの形成が可能であるかを想像できるものでなくてはならない。

そういう意味で単純に研修名だけが羅列されているような研修計画では不十分であり、各施策間のつながりにより発揮される効果や、期待されている人材としての機能発揮について示しておくことが求められる。そうなってくるとその作り手としては、企業内の各部門の機能や意思が理解できている人が必要となってくる。なぜならそういったことを知らないままで作られた人材開発体系は、実態とかけ離れたものとなり、働く人々に理解されず浸透しづらいからである。


そこで人事部が開発体系を作ろうとするときに会社全体を俯瞰できる能力を持った人が必要となるが、現実は企業内ではそういった人材は多くない。その大きな理由として経験が偏っていることが挙げられる。米国企業のキャリアモデルとも言えるが、米国型では単一的な職能でキャリアパスを形成し専門性を追求するケースが多い。ただ米国型が間違っているというのではなく、その場合はもともとその職能の中で人材開発ストーリーが策定されているため、それはそれで一つの体系が出来上がって人材の機能、効果が発揮されるように、少なくとも形式上は作られている。また、米国において人材開発体系を作るような人事の企画機能部分は、いわゆる人事のオペレーショナルな部隊とは別の組織であり、処遇も大きく異なる人材が経営戦略の一環として人材開発を企画していることが通常である。日本企業でもメーカーなどでそのようなケースがしばしばみられるが、処遇に差をつけるのはどうやら苦労しているようで大きな違いとなっている。

つまり、日本企業の人事部においてマネジメントや企画に携わる場合や将来の経営リーダー候補者のキャリア形成にあたって、単一機能型の人材開発体系は限界があるというのが持論である。なぜなら、日本企業における現在の雇用慣行の世界においてはリーダー選抜が欧米企業に比べて遅く、かつ明示的ではない。また、単一職能内の意思決定力が弱く、最終的に経営層にまで意思決定を委ねる(権限、責任が下に降りていないということである)。またそれに関連して施策の実行にあたって各部間の調整コストが高い。こういった企業慣習がある中では、会社全体でキャリアパスを考えることがリーズナブルであると私は考えている。正直なところこの話については以前から問題意識がありつつも、絶対的な科学的根拠があるわけではない が、今までの企業人生を振り返るとそのような主観を持っている。


人材開発体系を作るにあたってもう一つ重要なポイントは企業のビジョンと人材ビジョンに基づいて構築するという点である。経営ビジョンがない体系はパーツ部分が先に作られてしまっている設計図のようなもので、組み合わせようとしても最終的な完成物には隙間や穴があったり、本来求められている機能が発揮されなかったりする。会社が存在する意義、目的といった進む先(言ってみればミッション)にある目指すべき状態がビジョンであり、そこに向けて人材は開発されることで最終的なミッションの達成が果たされる。その時に拠り所とすべき人材開発の目指す形が人材ビジョンである。

人材ビジョンに関して言えば、ここで陥りやすいのは、「会社によくいる人材のモデル」を作ろうとしてしまう ことである。会社の中で一般的に進むべき道としてのスタンダードづくりを行う、というのが一見すると納得感が高い人材ビジョンのように思えるが、そもそも全員が同じような道を歩むわけでもなく、そこに向けて人をリードするべきではない。人材ビジョンとはその会社で「目指すべき人材のモデル」である。当然ながらそのような人はなかなかいないのだが、それで良いのである。モデルとは到達できたかどうか分からないような目指すべき高い目標 であって良い。あれも出来てこれも出来て、、、などという人は滅多にいないからこそ、そこに向けて人を進ませるのである。まあこれくらい出来ればいいかな、という人材モデルは、それを達成した人にはもはや成長のトリガーを奪ってしまっている。

しかし、実際のところ人材開発体系作りは理想論と現実とのせめぎ合いである。理想を掲げても意味 がないという人も多いが、会社そのものが成長に飽き足らないのと同様に、いつまでも「その次」を目指す人材も数多くいる。その時に会社側が既に開発を放棄してしまうわけにはいかないであろう。