時事ネタコラムvol.8 「産業革新投資機構のトラブル ―何のために働く―」   

時事ネタコラムvol.8 「産業革新投資機構のトラブル ―何のために働く―」  

2018年12月11日 0 投稿者: 大橋資博

いかにも企業のガバナンスのことを考えずに役所が主役になろうとしたときに起きそうなゴタゴタである。とはいっても辞任する旧経営陣の言うこともなるほどもっともだ、とは思えない。この問題の本質は、目指す高邁な(であったはずの)思想と、そのための企業運営の考え方がずれていたことにあると考える。高い志を持って運営しようとした割には、理念先行よりも現実重視の人を集めてしまったというか。つまり、政府によるファンドで日本企業の成長を支援し、再生をはかるという立派な考えをもって旗を振ったにもかかわらず、高いお金でビッグネームを集めようとしているからおかしくなるのである。案の定、高いお金で集まったビッグネームたちは、お金の問題ではない、としながらもさっさとトンずらしたわけである。


「経済産業省の姿勢の変化で、共感していた目的を達成することが実務的に困難になった」

これが産業革新投資機構(JIC)の田中正明社長が辞任の理由として述べたことである。

経済産業省の姿勢の変化とはなんだろうか?

今回辞任する旧経営陣側が経産省の変化した姿勢として問題視しているのは「経産省がJICの運営に口を出す」という点と「報酬水準」の2点である。つまりそれをもとに彼らの言い分を分かりやすく書くとこういうことだ。

「運営に口を出さなくて報酬水準が以前のものなら目的を達成できたんだけどなぁ―」

そうなの?という感じである。この言葉通りに受け取れば、この機構の目的については共感しておりそれは以前の経産省の姿勢であれば達成可能であると思っていた、ということである。私が知ることができるのは新聞やネットニュースなどのオープンソースであり、それが真実であるかどうかは別として、報道の通りであると仮定すると、この説明がどうにも違和感なのである。約束していた報酬を最終的には減額したいと前言を翻した経産省ももちろんひどいものだとは思うけれど、目的に共感していたのであれば、そして、報酬が1円だとしても引き受けるというのであれば、この程度のごたごたはさておき、日本のためという理念を最優先して引き受けるではないのだろうか、、、と。

経産省が投資の判断で口を出すのが当初の話と違う、ということらしいが、お金を出した人が口を出すことに疑問はないだろうし、口を出されるからうまくいかないというのは(事実その通りの感は否めないのだが)、そもそもそういう成り立ちの組織である理解が不足しているのである。だったら口を出すなよ、というのはお金の大本を担っている人の理解は得づらいのではないだろうか。

報酬について、「一度正式に提示した報酬の一方的な破棄という重大な信頼毀損(きそん)行為により決定的なものとなり、もはや経産省との信頼関係を回復することは困難という判断に至った」ということだが、提示された金額の通りに経産省に申請したら、最終的な金額決定にあたっては政府内の意見を踏まえて減額となったという経緯のようである。もしそうだとすれば、不幸な話だし腹も立つが、それが嫌ならやめるしかない、ということであろう。

そんなにたやすく捨てられてしまう共感していた目的とは何であったのだろうか。JIC自体の目的を達成できなくなるような姿勢変更があるとすれば、たとえば変更して違う事業を行うとは思えないし、国策として設立した官民ファンドの投資方針が大きく変わるとは思えないのだが、その目的についてよっぽど受け入れがたい方針変更があったのだと思う。ゆめゆめその方針変更とは「経産省が自分たちの運営に口を出すことになったこと」ということではないことを祈りたい。


このケースと全く同じではないのだが、ふと前職のことを思い出した。ゆうちょ銀行が民営化する際の人事制度の改革を担当していたが、その当時の私の考え方はこうであった。

「ゆうちょ銀行は民営化して将来的には上場を目指している。上場する以上、企業価値向上を図る必要があるが、そのためには現在の郵便局による郵便貯金獲得と国債に頼ったビジネスモデルには限界があるため、新たなビジネスモデルを構築する必要がある。そのためには既存の体制は限界がある。新たな発想ができるように社員を開発しないといけないし、新たなスペックと思想を持つ社員も入れないといけない。そしてそのためには新しい人事処遇制度が必要である。」と。

そこまでは今回のJICを作った経産省と大きく論理構造は離れていないと思うのだが、そこで高額報酬を担保する仕組みを導入したのか、と言えば答えはノー、である。入れていたらどうなっていたのだろうか、は皆さんに推測をゆだねるが概ね外れることはないだろう。

結論としては今回のことで仕切り直しとなったことはよかったのだと思う。もともと目的に共感していたとは思えない両者である。どうしてもやりたいのであれば、高額でビッグネーム、という民間のどこにでもある発想で集まる人材でやればよいし、もしくは高い報酬でなくても本当にやる人材を見つけ出すしかない。それが出来ないというのであれば、政府ファンドという構想自体が既に破綻しているだけということである。