第1章 人材育成とは① 育成と訓練の違い

第1章 人材育成とは① 育成と訓練の違い

2018年12月7日 0 投稿者: 大橋資博

研修不要論 ―「研修なんて意味ない」―
「研修なんてやったって意味ないよ」。人事に関わる仕事をしていてよく耳にした言葉のベスト3に入る。こういう発言をする人はえてして社内で「優秀と目されている人」であることが多く、かつ、「実は人材育成の恩恵を被っている人」が多い。あえて定義をあいまいにしたままエリートという言葉を使うと、そのエリートたちは優秀な大学を出て知識も豊富なことが多い。未来が約束されているがゆえに、盾突いてくる人も少ないことから、自分の言うことが思い通りになっているケースも多い。そして誰にも反対されていないことをもって、自分が考えたことが非常に優れて他の人には真似できないと思ってしまう。実際、そのパフォーマンスレベルはそれなりに高いのだと思うが、そうやって自分が思うことが通ることがスタンダードとなってしまうと、自分が他の人の意見に従わなければならない場面を非常に嫌うのである。こうして出来上がってしまったエリート君は、研修のように人からものを教わったりすることは不本意であり、当たり前の正解を言われるのがバカバカしくて嫌なのであろう。しかし、それは人材育成すなわち座学で人から与えてもらう研修としか理解していない、もしくは非常にアンテナが低く視野が狭いがゆえに培われた考え方であろう。研修とは何も正しい知識を正しく教える学習塾なのではなく、本来、会社が社員の資源としての価値を最大化させるための行動なのである。


確かに事実として研修は1日中拘束されるし、人の話を聞かないといけない退屈なもので生産的でもない、と思う人も多いだろう。ちなみに私も受講生として世の中にあふれている効果的ではない研修を受けるのは正直そのような理由もあってあまり好きではない、、、。しかし実施する側は、この時間を最大限有効なものとすることに向けて努力している(はずである)。それは営業マンが顧客を獲得して数字を挙げるのと同じように目的に向けて邁進しているのと変わりはない。


本来行われるべき研修とは、貴重な時間を使って経営の意思を社員に伝えて落とし込む戦略実行の時間である。またそれと同時に主催者側が人材ポートフォリオ形成のために人材の状態を把握するための場でもある。このポートフォリオはその後の配置や選抜といった人事運用に活かされる貴重な情報となる。しかし、これを雑に扱い、研修の意義を見失っている会社は結構多いと思う。なぜかというと、先に述べた通り研修の意義をはき違えてしまい単に授業をするためだけの研修ばかり行っているからで、それではコストばかり食って何も利益を生まない。さらにもう一つの課題は多くの企業で「人材開発」「人材開発に携わる人材」を軽視する傾向があるからである。なぜ軽視するか理由もだいたい同じだが、「研修なんかしても人は変わらない」と人事(・・)部内(・・)の(・)人間(・・)ですら思っているからであり、「研修を担当する人は会社のお金を使いつつも、取り立てて責任を問われることもなく、難易度が低くて価値も生まない作業をやっている」と思っているからである。はっきり言ってこういう考えの会社はロクな会社ではない。


ゴーイングコンサーンとして企業は継続して成長を続けることが求められる。そうした場合に企業には経営を成功に導くための努力を継続し、所属する人材の働く意義と意欲の維持が義務として生じると私は考えている。その遂行のためには、会社側が弛まなく人材成長の機会を提供すると同時に、人材をコントロールして自社の人材価値向上を目指す必要がある。人材は自分の意思を持っているし、ある部分では勝手に成長もする。しかし全員が独自に勝手な動きをしていても企業総体として成果を生み出す効果は下がってしまう。よく言われるように野球という競技では全員がホームランバッターでも試合では勝てない。ホームランの出る確率はシングルヒットの出る確率より低く、ホームランによる得点が限られている。ホームラン以外の出塁の可能性を上げることや、走塁を磨く、そして相手に点を取らせない守りを強くすることで、試合に勝つことが可能となる。組織も同様で、役割があってそこで機能を発揮することで企業としての結果につながる。そもそもホームランバッターだけを集めようとしてもマーケットの人材との需給バランスから成り立たないのは明らかである。


人材育成を行うということは先ほども述べたように、学習塾のように出てくる問題を解くことができるように正しい知識を教えることだけではない。それはあくまでも「訓練」に過ぎないと思っている。この訓練は言い方を変えると誰もが同じようなことが出来るように定まったやり方を教え込むことである。私は銀行のキャリアが長かったので銀行での訓練を例にするのであれば、店頭での端末を操作するための研修、これは訓練である。Aさんに対してもBさんに対してもCさんに対しても同じように端末操作の方法を教える。言い方は悪いが十把一絡げの作業なのである。そのゴールは、定められたことをその通りに的確に実行できるようにすること。もちろんそこにはスピードとか正確性といった個人差が生まれるため、訓練も様々な方法論を駆使して効率的に行う必要はある。しかし、企業が取り組むべき「人材育成」はそれではあまりに不十分である。どういう人材がいてどういう役割を与えて最大限機能発揮させていくか。そのために人材育成の場が存在するのである。第2部ではこの人材育成について詳しく解きほぐしていきたい。