時事ネタコラムvol.7 「FA制度 ―巨人に行くことはNG?―」

時事ネタコラムvol.7 「FA制度 ―巨人に行くことはNG?―」

2018年12月3日 0 投稿者: 大橋資博

プロ野球のペナントシーズンが終わり、FA資格を有する各球団選手たちの去就が注目される季節がやってきた。今年も西武・炭谷と広島・丸の2名が既に巨人(読売ジャイアンツ)への移籍を表明したが、そのたびに巻き起こるのが「マネー競争によって各チームの主力選手を集めるのはずるい」という巨人を中心とした財力に優位性のあるチームへの批判である。
人事の世界においても「社内FA制度・社内公募制度」を有する企業があるなど、FAは馴染みの深い制度となっている。プロ野球と大きな仕組みは似ており、「一定の基準(主に時間的なもの)をクリアすることで資格を得る」、「有資格者は自ら手を挙げて違う部署(プロ野球なら球団)に行くことが出来る権利を持つ」といった性質を有している。当然ながら直属上司に止める権利がないことが通常であるが、FA制度を利用しても宣言後の調整を人事部が行っている企業もあり、それにより実効性が損なわれているケースもある。 このFA制度は、自分がやりたい仕事に挑戦できるという点で社員にとってキャリア形成を自律的に構築できる非常に有意義な制度のように思える。一方で会社からしてみれば、どうだろうか。
人事に携わる人間に話を聞くと様々な反応があるが、「組織の活性化につながる」「社員のモチベーション向上」といったポジティブな意見の一方で「せっかく育てた部下がいなくなってしまい事業部のパフォーマンスが低下する」とか「希望部署が偏ってしまい、結局人員調整が前より困難になる」といった声も出ている。


私が一時期社会から研究の世界に身を投じていた時に、金融機関の人材のキャリア形成と人事施策の関係について研究をしていたのだが、金融人材の活性化につながる施策の一つとして社内FA制度の導入を挙げていた。その時の論文から抜粋すると以下のように述べている。
「(略)今までの組織では、フリーエージェントをしても、結果として現場の状況(上司の意向)によってつぶされてしまったり、それまでのキャリアが邪魔をしてしまったりすることがあった。しかし本当に自己責任を身に付けさせるためには、自己責任の結果を組織側が歪曲させてしまわないように、キャリアチャレンジの権利を正当に与えることが必要であろう。」
つまり言いたかったことは、FA制度の狙いはキャリア形成における権利と自己責任の両方の明確化であるということだ。これが権利にだけフォーカスされてしまう点はプロ野球と異なる点かもしれない。企業ではこうした制度によってキャリア形成を行う社員は限定的な職種の一部の社員に留まるだろうと考えているが、自身の求める環境で挑戦できる権利を与え、そこで付加価値を最大化できる人材がいるのも確かであり、その点でFA制度は会社にとって必要な仕組みであろう。間違っていけないのは社員が逃げ道に使うことであり、その意味からも権利を得た社員の評価を〇であっても×であっても正当に行うことも忘れてはならない。


またプロ野球の話の戻ると、OBのコメントによると彼らの移籍基準は「要はお金」というのが多いらしい。そしてネットニュースのコメント欄などを見ると、そうした発言に対しても「プロなんだから当たり前」「対価で正当に評価されるべき」といった意見が太宗を占めている。であれば、そうした対価=正当な評価を下した巨人に行くことは、なんら問題はないのでは?と思ってしまうのだが、なぜダメなのだろうか。
この点においてもプロ野球と企業組織の大きな違いがあるのではないだろうか。つまり、プロ野球は個人事業主の性格が強く、自分の成績と得られる対価との関係性が高い程度で連動しているが、企業組織は全体としての成果と組織への貢献であったり、単年度の成果だけではない評価の要素も多い。また、プロ野球は成果を出せなかった場合の身分保障の程度が非常に弱いという点で企業組織とは大きく異なる。
プロ野球におけるFA制度は選手に取っての大きな権利であり、それを得ることが出来る人材が限られているという点で、その制度を使って更なる飛躍が出来る可能性を用意することは素晴らしいことである。企業にとってもそのようにFA制度を位置づけられるとすれば、それは会社にとって成功施策であろう。
ちなみに、企業組織の中でどこが“読売巨人軍”なのかは各社異なるだろうが、人集めをする部署が必ずしも会社員にとって達成感を得られるところかどうかは、それはプロ野球も会社組織も同じではないだろうか、と思っている。