第4章 組織と人種② 人材アーキテクチャの考え

第4章 組織と人種② 人材アーキテクチャの考え

2018年11月27日 0 投稿者: 大橋資博

様々なタイプの人材を最大限有効に活用することは人事の重要なミッションの一つであるが、経営リーダーを生み出すための有効な人事管理を考えるにあたり、「人材アーキテクチャ」「makeとbuy」という概念について触れておきたい。
前段で中途採用の話をしたが、途中から加入することはどのような世界においても非常に厳しい環境に身を置くことになる。実力主義と言われる世界でもそうであろう。生え抜きとかプロパーとかいった表現は「その世界でずっと頑張ってきました」というプラスの意味合いを持たせられることがあるが、一方で中途とか、外部とかいった表現は「よそ者」というネガティブな意味合いを時にもって発せられる。逆に、途中から入った人間たちも、それはそれで自分たちのことを自分で勝手に「部外者」「傭兵部隊」とレッテルを張ることで、どこか一線を引いてみたりプロパー出身者の批判ばかりすることがある。言ってみればどっちもどっちの世界ではあるのだが、少なくともプロパー社員と中途入社社員の関係性は融和という言葉からは程遠い。異なる文化で育った社員を一つの会社の中でキャリア統合させる難しさは、M&AにおけるPMI(Post Merger Integration)における組織統合の問題でもよく論じられるが、そもそも人材の流動化が活発ではない日本企業においてはM&Aではなく中途入社組の活用というテーマで長らく解決しない問題となっている。


私は選抜型の次世代リーダー開発というテーマに長くかかわってきた。ある企業の例で、将来の幹部候補をプールすることを目的に選抜リーダー研修が行われていたものの、選抜という名でありながら実際には年次管理により参加者が決められてしまっていた。さらに、選抜者がプロパー社員を中心に構成されており、同じようなポジションにいても外部からとってきた人材はその研修の対象者からは漏れているような状況に陥っていた。結果として何が起きたかと言えば、選抜研修というもの自体が社内で価値認識されなくなり、そのような選抜研修に参加することは時間の無駄だ、という社員側の意識を醸成してしまった。社員側にとって時間の無駄と思われるような施策が有効に活用されることもなく、結果として人事が使った金銭的コストも無駄となってしまった。


これはmakeとbuyという考えで研究の中でも議論されている。コアとなるようなリーダー人材を内部で開発すべきか(make)、外部から調達すべきか(buy)という話であるが、その理解に際して人材のタイプ別に効果的・実践的な管理方法を考える「人材アーキテクチャ」という研究において、Lepak and Snell (1999)の代表的な分類方法がある。人材の企業における特殊性と人材の価値それぞれの高低によって分類された4タイプにおいて有効な人事管理方法を整理しているのだが、そこにおいてともに高い人材の獲得は内部育成によって開発するとされている。その理論的根拠となっているのが、Barneyの資源ベース理論であり、Williamsonの取引コスト経済学なのであるが、この考え方から「makeとbuy」が導き出される。
まず、企業にとってその企業固有の知見は外部から獲得することや模倣が困難なものである。すなわち競合企業はその資源を容易に獲得することができないわけであって、そこで当該企業はその模倣困難な資源をさらに模倣困難なコアコンピタンスとして確立することを選好するわけである。さらに取引の考え方からアプローチすれば、取引においてはそれぞれ異なる取引属性を持つ者同士が、取引費用を節約するように異なる取引形態を選択する。また、ある特殊な属性の取引の場合には、統合することでその取引を企業内部に取り込み、取引費用を節約するというものである。そう考えれば、特殊な取引を要する、いわゆる関係特殊的な投資の程度が高い取引であるほど、内部化によって管理することを選ぶという行動をとるようになる。これらがコアとなる人材を内部化により開発することを示す根拠となっている。同様に神戸大学の金井壽宏教授もコア人材について、社外から簡単に調達することはできず、長期的に持続する競争優位性を組織にもたらすのに大きく貢献できる高度専門人材と経営人材としており、それは内部開発すべきであると整理している。


しかし果たしてそうであろうか。そもそも、コアとなる人材が企業特殊性を有していることは本当に何よりも重要な要素とは言えないのではないだろうか。また、企業の中で企業特殊の情報を持っていることが経営リーダーの不可欠な要素であるとするならば、同様にその企業が持ちえないような外部の知見だって経営リーダーとの重要な要素と言えないことはないのではないだろうか。
冒頭で述べたように、人事はあるべき姿を理想としつつも、現実の人と組織の状況を無視して理想論を押し通すことは難しい。こうしたあるべき(と言われるような)人事管理の方法は、いざ実践してみると多くの摩擦や軋轢を生んで、組織を台無しにしてしまうかもしれない。しかしあるべき姿を追求することは私は非常に大切だと思っている。世の中に様々な人材がいるのだから、当然会社組織にも多くの人材がいる。これらを区分けして一部だけを活用するような組織は、きっと雰囲気の悪い組織じゃないだろうかと思ってしまう。