時事ネタコラムvol.6 「経営者の矜持―日産自動車の衝撃―」

時事ネタコラムvol.6 「経営者の矜持―日産自動車の衝撃―」

2018年11月20日 0 投稿者: 大橋資博

このコラムで詳細を触れるまでもないが、昨日日産自動車のカルロス・ゴーン会長が逮捕されるというニュースが日本全国を駆け巡った。ネットニュースでも続報を含めてトップラインを席巻し、しばらくは話題もちきりとなるのであろう。もちろん事の真相を私自身は知る由もないため、ゴーン氏をここで断罪をするのが目的ではなく、このコラムで書きたいのは「経営者たるもの何を大切にすべきなのか」という話である。

日本企業ではプロ経営者という考え方がなかなか根付かない。日本的雇用慣行というしがらみが影響している面もあろうが、プロ経営者というと数字にだけこだわったドライで冷徹な印象を持つことから、どこか敬遠しがちなのかもしれない。

そのような中でゴーン氏は少なくとも日本企業におけるプロ経営者の一人として長年君臨してきたと言えるだろう。ここで念のため断っておくが、日本企業に経営のプロがいないというわけではないということだ。優秀な経営者は数多く存在し、それが日本企業を今日の状態にまで押し上げてきたのは疑いのない事実である。プロ経営者とは経営を行うことを目的として雇われて企業を渡り歩くリーダーのことを指すのであり、その点で言うと日本企業はプロ経営者が欧米に比べても非常に少ないということである。


2000年、日本を代表する企業において外国人のトップが就任するということは当時の私も大きな衝撃を受けたのを覚えている。そして「日産リバイバルプラン」は、おそらく従来の日本人経営者であれば考えることは出来たとしても実行に移すことが出来た人はなかなかいなかったであろう。社内公式言語を英語としたり、クロスファンクションチームを作って縦割り組織にメスを入れる。そして何より代名詞となったのは徹底した合理主義に基づきコストカットを断行した。そんなゴーン氏に対しては、当時の日本人の中でネガティブな印象を当初は持っていた人が多かったように記憶している(私の周りだけかもしれないが)。しかし、ゴーン氏への評価は次第に変わっていった。

ゴーン氏は当時の日経新聞で、経営のエッセンスの一つとして「何が従業員にやる気を出させ,何が彼等を不安にさせるのかを知ること」と述べている。あくまでメディアにおいて発信された言葉ではあるものの、少なくともそう発していた時点での彼は従業員との対話を軽視していなかったであろうし、企業再生という使命感の中で自らの責任を自覚していたのではないだろうか。こうして日産は復活を遂げたが、それから長い月日が流れたのである。


ちなみに、日本の数少ないプロ経営者の一人として現在パナソニック専務をされている樋口泰行氏の名前が挙がることもある。私は樋口氏自身のことはよく存じ上げないが、氏の経歴で「元パナソニック社員」という点に着目している。大学新卒でパナソニックに入社し、そこには10年程度の年数しかいなかったにもかかわらず20年以上の月日を経てからパナソニックの役員として戻ってきたのである。もちろんその途中で日本HPやダイエーの社長を歴任されている。日本企業の役員では珍しいキャリアだろう。なぜなら出戻りに対して少なからずしがらみを持っているからだ。特に年次管理が強い大企業であればなおさらで、幹部ポストでの出戻り人事を行うようなところは非常に珍しいと言える。当時の上司・同期だってまだ同じ会社には当然しているわけで、彼らにしてみると「え?」という気持ちが起きるかもしれない。しかし、一度は会社を飛び出した人間であっても、年月を経てその人材の価値を知り、経営の助けとなる人材として共に働く選択肢を会社が与える、というのは素晴らしいことだと思う。

経営者はリーダーであるが、同時に社員の一人でもある。プロ経営者だからといって社員がついていかなくなればおしまいである。同時に会社が経営者を独り歩きさせてしまってもいけない。経営者のことは経営者が考えるといって任せるのではなく、日本企業でも経営リーダーの在り方にもっと向き合うべきであろう。