時事ネタコラムvol.5 「三菱商事の新人事制度」

時事ネタコラムvol.5 「三菱商事の新人事制度」

2018年11月7日 0 投稿者: 大橋資博

先日新聞で、三菱商事が中期経営計画の中で20年ぶりに人事制度を刷新して若手を幹部登用できる仕組みを導入するという記事が出ていた。

制度の詳細な仕組みまでは書かれていなかったが、特徴として、入社10年目程度の社員が幹部(子会社社長や本社課長級ポスト)に就くことが可能となることや、その先は年齢に関係なく能力主義により処遇され、出身母体もこだわらないということが記事になっていた。

これに類する制度自体はもちろん他に導入している企業はいくらでもあるだろうし、取り立てて珍しいというわけではないのだが、日本を代表する有数のリーディングカンパニーが取り入れるということでこうやって記事になるわけである。うがった見方をするのであれば、どこかに、「大企業というのは年功序列であって、若いうちから幹部ポストに就くことは難しい」という先入観を持っていることが世の中の一般的な概念である、という前提に立ってこの記事は書かれているわけである。


私も育った環境もそうであったし、御多分に漏れずそういった感覚を持ち合わせているのだが、一方でこの記事を読んでいて、大切なポイントが2つあると感じた。

 

まず1つ目は、

「デジタル化にともない年齢にかかわらず最適な人材が事業を指揮できるようにする」という点である。

つまりデジタル化という社会環境の変化によってリーダー像の一辺が以前とは変わってきているということだ。言い方を変えれば、デジタル技術という環境の変化がなければ、年齢が若い人がリーダーとして事業の指揮を執ることが出来ると決定できるほどの判断基準は無かったということでもある。これは大企業を見てきた私にとっては非常に合点がいく説明だと思っている。なぜなら、大企業は業務が機能的にも階層的にも細かく分化しているため、オペレーショナル(単純)で難易度の低い作業が非常に多く存在してしまい、その作業を入社年次の若い社員の仕事として割り当てる仕組みが完成してしまっているからである。つまり年数という要素が、難度が高くて複雑な仕事を担当するための基準として妥当性が高くなってしまっていたのだ。しかしデジタル化によって今までの業務のうち単純な部分は少なくなり、さらに今までの知見では応用の利かない新たな仕事が生まれている。その仕事を指揮するにあたっては年数は基準とはならないではないでしょう、ということである。ただし、誤解が生まれやすいので注釈をつけておくが、私の考え方は「その一方で年数が基準となる仕事もある」というものだということだ。

この制度の実効性のためには人材ポートフォリオの見直しが必要である。人材ポートフォリオについてはまた別で章を作って話をする予定だが、要は自分たちの会社の人材分布をマッピングするというイメージである。戦国時代の武将が自分の国を経営するにあたって、どんな部隊をどこに配置するのか、と考えていただろうが、そのようなものに近い。今までと戦の方法が変われば、人材の構成と配置方法も変わるということである。


もう1つのポイントは、

「課長級ポストに就くことが可能となる10年目までに経営に必要な能力を身に付けさせる」

という点である。

この2つ目の点がもし誠実に実行されるのであればこれはなかなか大きな変化を生むだろうと感じた。つまり10年目までに、ということであればおそらくその少し前の段階から「経営に必要な能力を身に着けさせるに値する人材の選別化」が始まるということでもある。これは思い切った形であろう。そもそも優秀な(はず)人材が採用されて集まっている大企業の中で、さらに将来リーダーとなるであろう人材をセレクションする、いわば早期サクセッションプランを導入するということになる。10年間は非常に短い。選抜リーダーに関して私自身も研究をしているが、日本企業においては人事部による選抜人材の管理システムや、内部育成(新卒入社社員)によりコア人材を管理するという仕組みが一般的となっているが、もし本当に競争力向上に向けて人材を選別化するのであれば、この部分にメスを入れることは必須であると考える。10年間というのは非常に短い。その中で経営リーダーを作るという挑戦は非常にチャレンジングであるし、これがうまくいって他の企業にも伝播することで、日本のリーダー人材の創出構造に変化が出てくればこれは企業活性化の点で大きな貢献であるといえる。


人事制度の闇の一つに、非常に部分的な一例をもってあたかも会社全体がそのような仕組みで動いているように見せかけるために、その一例を制度上可能であるように作り変えるという、一種の広告宣伝行為が行われる点がある。もちろん三菱商事の今回の人事制度がそうなると言っているわけではないが、この制度が本当に実効性の高い、会社の成長に貢献するような制度となるためには、制度の運用部隊である人事部はこの2点を見失わないように堅持して取り組んでほしいと思った次第である。