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「最後の頭取」を読む

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日本経済がまだ高度成長の余韻に浸り、都長銀信託というメガバンクが23行もあった頃、
日銀営業局で三井、長銀、拓銀の三つの銀行を担当していた。
今となってはいずれも姿を消しているが、都銀しんがりの拓銀は横浜等メガ地銀から追い
かけられ何とか規模を拡大したいとの思いが強かった。
その後、金融界がバブルの膨張に巻き込まれ、拓銀もそのるつぼにはまり、表舞台から姿
を消していく中で、著者の河合頭取はまさしく「最後の頭取」として特別背任罪で銀行ト
ップとしては異例の実刑判決を下され、刑務所暮らしを余儀なくされる。
バブル崩壊後多くの地域金融機関が破綻に追い込まれたが、その大半は大蔵検査や日銀考
査で「不良債権が累積し自主再建は困難」との烙印を押され計画的に処理、経営者は責任
を追及されていったが、拓銀は金融市場での資金繰りが急速に悪化、否応なく市場から退
場を余儀なくされた異なったタイプの銀行破綻であった。
同じ時期、山口県の小さな第二地銀を経営し、仲間が自主再建不可との烙印を押され次々
と姿を消し、頭取等経営陣が逮捕されていく中で、「拓銀の破綻劇は三洋証券同様金融市
場が突き付けたものでまさしく資金繰り破綻そのもの。
当初の道銀合併構想が流産となり第二地銀の北洋の救済合併により消滅、拓銀側の経営陣
は特別背任で逮捕され有罪判決」との記憶がよみがえってきた。
当時の北洋の武井頭取とは同じ日銀OBで頭取職にあり、第二地銀協会の集まりでしばしば
お目にかかり拓銀との合併の経緯について裏話も含めいろいろお伺いし、この間のいきさ
つについて武井先輩に「まさしく小が大をのむ合併劇ですね」と申し上げたりしたので、
とりわけ印象が深い。
この本の冒頭、筆者は「愛する妻(職場結婚で5歳年上)が先立ち、子供もいない。経営
破綻から20年が過ぎて、自分にけじめをつけるため、この本を書くことにした。
戦後、銀行行政が横並びの護送船団方式からバブル崩壊と金融危機を経て、自由化へと流
れてきた。
銀行という職業を通じて、私は昨日までの常識やルールが一夜にして変わる場面に何度も
遭遇した心臓が凍るような修羅場も経験し、多くの失敗も重ねた。これからの皆さんも、
形は違えど時代の転換期に直面することがあるかもしれない。
そんな時、どうすればよいのか。
私の体験記から、何かしら教訓を見つけて、自らの人生に生かしていただければ幸い」と
記し、終章では「刑務所で覚えた般若心経を毎朝、今は亡き妻の仏前で読経している。
家族や昔の仕事仲間にも恵まれ、お金だけでなく人の年金という二つの年金をありがたく
頂戴している」と結んでいる。

法曹一家に生まれ、北大法学部を首席で卒業した彼が、妻の反対を押し切り拓銀頭取の座
につき、どのような経緯で特別背任の罪を問われるに至ったか、獄中生活での愛妻との手
紙のやり取りなども丹念につづられており、胸をえぐる。
彼がA級戦犯の筆頭に挙げる山内前任頭取(彼と同様の実刑判決を受けるが、健康を害し
刑の執行が停止され2年後に亡くなる)とは、小生も日銀釧路支店長時代に面識があり「
大柄でざっくばらん」との印象が強く、温厚な感じの人だった。
末尾では、この本の構成を担当した朝日新聞オピニオン記者である日浦統氏が「河谷さん
は時代の荒波に翻弄された。その転換期にあって、時の世論やマスコミ、さらには捜査当
局も「スケープゴート」を求め、その波に巻き込まれたのが拓銀であり、河谷さんだった
。インタビュー記事の取材中、この「スケープゴート」の言葉を聞くたびに何度もいたた
まれない気持ちになった。
大学の先輩でしかも父の日浦力弁護士が河谷さんの主任弁護人を務め札幌地裁で無罪判決
を勝ち取りその晩に帰らぬ人となった(その後,高裁、最高裁で有罪結審)こともあり、
どこか因縁を感じざるを得ない」とのコメントを寄せている。
衝撃の記録であり、時代の証言者からの生の声である。関係者はもちろん、多くの国民が
忘れてはならない重々しい出来事であったように思う。

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